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優しい…か

その言葉になんとも言えない違和感のような物を覚えつつも

どこかで喜んでいる自分もいるように思えた。

 

「そう思う?」何気なく聞き返していた。

「えーっと。はい。そうですね。

 いや、でもこんなこと急に言われても、嫌ですよね?」彼は慌てながら答えた。

彼が慌てているのを見て、私は自分で意地が悪いなぁ。などと思いながらも、彼の表情が動くのを楽しんでみたくなっていた。

「ううん。嫌じゃ無いよ。むしろ嬉しい。

 けど…」

「けど?」

「初対面でそんなこという君は、あれだね。女の子の扱いとか上手なんだろうね!」

彼の表情がまた変化する。今度は少し顔を赤くして少し照れたようだった。

「でも、優しいのは君の方だよね?私はそのまま離れちゃったし」

「それは、いや、たまたま?みたいなものなんで。別にそんなんじゃないですよ」

「それで、なんで、私が優しいの?」

少し意地悪に問い詰めてみた。

「いや、その、変に思わないで欲しいんですけど…」

彼は気恥ずかしそうに言葉を選びながら続けた。

「そういうことを気にしてあげれる人って、なんですかね。それだけでいい人なんだと思うんです。だから、思いやりを持たれているのでそれだけで優しいというか、その、なんというか、そんな感じです」

「なるほどねぇ…」

私は少し、考える素振りをしていた。

「でも、それならやっぱり君の方がいい人で、優しいひとだよね?」

「いや、自分はだから、成り行き…みたいなものなんで。ほんと、そんなんじゃないですよ」

彼は照れながらも、本当に自分はそんな出来た人間じゃ無いと言うように否定していた。

「そかそか。ふむふむ。なるほど」

こんなことを思うのは少しおかしい気はしたが、きっと彼は似ているんだと思った。

なんとなく自分に自信が持てていないところ。

自分なんかよりすごい人がたくさんいること。

自分だけじゃ何も出来ないと思っているところ。

なんとなくきっと似ているのだ。

「よし!なら、お互い、いい人だ!とりあえず、コーヒーしかないけど、飲みたまえ!」

「あ、ありがとうございます」

彼は感謝の言葉を言いつつも、依然少し照れくさいのかバツが悪いような表情をしながらコーヒーを飲んでいた。

そう、それも、やはりブラックで。

対抗して私もブラックで飲んだ。

ああ。こういう所が素直になれないというか、子供っぽいというか、意味も無く拗らせているのだなぁ。とか思いつつも、決して好きというわけでは無いブラックコーヒーを飲んでいた。

 

その後は、彼が大学生であることや、何を専攻しているのだとか、最近出たアーティストのCDを見に来たとか、どの曲が好きかとか、たわいの無い話をしていたと思う。

お互い、変な出会い方をした、この奇妙な空間に違和感を覚えながらも、なんとなく楽しんで話をしていたのだと思う。

いや、彼がどう思っていたかはわからないが、少なくとも私はこの奇妙な時間と空間がどことなく心地良いものだった。

 

ふと時計に目をやった

「あっ。そろそろ、1時間くらいになるね。ごめんね、時間とらせちゃって」

「もうそんなになりますか?」彼もスマホを取り出し時間を確認する。

「思ってたより話してたんですね」

「そうみたいだね。なんか、ついつい話してしまって、ごめんね」

「いえいえ。僕も暇だったので、全然大丈夫です」

「ずっといるとお店の人にも迷惑かけるから、そろそろでようか?」

「そうですね。これ、持って行っときますね」

そう言って彼はグラスをお盆にのせて返却棚へと持って行ってくれた。

「ありがとね」

「いや、こちらこそ、ごちそうさまです」

「それじゃ、また、困ってる人がいたら助けてあげてね!少年!」

「そんな機会、めったに来ないですよー」

二人で茶化しあいながら店を出た。

 

 

そう。ここまではよかったのだ。

なんというか、謎のテンションで大学生の男の子と一緒にコーヒー飲んで、なんだ?

私は何をやっているんだ?というか、これはあれか?逆ナンパなのか?え?私、なにしてんの??

冷静に立ち返って、状況把握すると、現状の意味のわからなさに頭がショート思想になった。

そんなこんがらがった頭で考え、導き出された答えが

 

「ごめん。お手洗いいってきていい?」

 

自分自身の脳みそのレベルが低くて後悔した。

なんでそんな言葉しかでてこないんだよーーー!!!

と、平静を装いつつ、頭の中ではパニックを起こしていた。

「あ、はい。確か、そこ曲がったところにあったと思いますよ?」

彼は特になんの不信感もなく、案内してくれた。

案内板を見つけ次第、私はちょっとごめんねと言い。颯爽とトイレへと向かった。

 

 

あれ?私、本当に何してんの?

すれ違った男の子に声かけて、なにおしゃべりしてんの?!

それに先輩のことも適当にあしらったし…

いや、それはいいのか。

に、してもどうしよう!ここからどこな一緒に行く?いやいやいや!!!ないないない!!!

え?じゃあ、トイレから出たら、そこでさようなら?

いや、それが一番良いのか?

いや、だとして、本当にそれこそ何してるんだって話だよね。

わーーーーー。勢いだけで普段しないようなことするもんじゃなかったー!!!

どうしよう…

 

と、情緒不安定になっていたが、いつまでも待たせるわけにも行かないし、勢いできたら、こうなったらノリと雰囲気でいくか!

女は度胸だ!そんなこと思ったことないけど!

などと、ぐるぐるしながらトイレを出た。

 

そしらぬ感じで「ごめんね。待たせちゃってー。」

なんて、言ったが、この後どうする?依然答えは見つからない様子。

彼は壁にもたれながらスマホでなにやらやりとりをしているようだった。

「いえ、全然大丈夫です…

 あ、すいません。ちょっとメッセージだけ返しちゃっても良いですか?」

「うん。もちろん」

よし!!今のうちに何か良い案を!!

いや、さっき個室にこもって何も出てこなかったのにそもそも、ここで何か出てくるわけがないのでは?

冷静に考えてみればわかるようなことを今更考えていた。

「あの、すいません」

あさっての方向を見ながら、内なる自分で騒々しくしていた私はハッとした。

悟られぬように、彼の方を向くと、彼はなんとも申し訳なそうに言った。

「これから、友達に誘われて、移動もあるので、今から向かわないといけないっぽくて…」

「あ。ごめん!予定あったの?気にしないで!っていうより、こっちこそごめんね、色々急に誘って時間とらせたりしちゃって!」

多分少し早口でしゃべっていたと思う。

「いえ、それは、めっちゃ楽しかったので!全然です!」

「よし!それじゃあいってらっしゃい!楽しんできてね!」

「はい!ありがとうございます!

 今日はなんていうか、ありがとうございました!楽しかったです!」

「うん。こちらこそだよ。ほら、遅れちゃうよ」

「はい。それじゃ、また、です」

「うん。じゃーねー」

そういって彼は駅の方へと向かっていった。

 

 

ふうううううううぅぅっぅぅぅぅうっ!!!!!

なに?神様は私に助け船をだしてくれたの?

いやぁ、ほんと、ありがとう神様!

とかと、都合良く、神様に感謝してみたりしていた。

 

さて、冷静になったことだし、晩ご飯の材料でも買って帰ろうかなーと、軽くその場で伸びをして、別のフロアに向かおうとした。

今日は何にしよっかなー

とか、鼻歌交じりに移動しだした。

にして、本当に今日の私はどうかしてる。

いつもならこんなこと、するはずもないのに。

なにがおかしかったのだろう?

そんな堂々巡りをしながら食品売場の方へと足を運んでいた。

 

周りは休日ということもあり、そこそこ人は多かった。

だから、なんとなく騒々しくかった。

でも、休みの日のモールのこの騒々しさがなんとなく好きだったりもした。

エスカレーターで一つ下のフロアに向かうため、とぼとぼと反省会と献立と色々考えながら進んだ。

 

今日はなんやかんや機嫌が良いし、お昼は浮いたし、ケーキでも買って帰ろっかな!

うん!そうしよう!

とか思いながら洋菓子の専門店コーナーを歩いたりしてた。

 

 

「・・・・・・・sん!」

ん?なに聞こえたような?

まぁ、これだけ人が多いんだから色んな声や音が聞こえるのは普通なことである。

「……ませんっ!」

でも、どうやら、私の近くで声がするようだ。いや、でも結局一人だし、誰か知り合いとかも早々会わないから、まぁ関係ないだろう。

「あの?わざと無視してます?」

どこかで聞いたことのあるような、無いような、そんな声のする方を振り返ってみる。

そこにはさっきまでの彼がいて、少し息を切らしながらも、むすっとしているようにも見えた。

「え?!」私は素直に驚いた。

「いや、さっき向こうに…??」

「いや、そうだんですけど!あの、連絡先とか聞いても良いですか?」

「ん?レンラクサキ?」えっと、なんだそれは?

私は完全に頭の回転がストップしていたようだ。

スマホの番号とか、何でも良いんですけど…」

「あー!連絡先ね!うん。いいよ!」

ん?いいのか?いや、良いっていってしまったな。

あれ?どうしよう…いや、もう、どうしようもないか!

 

私は普通にパニックだった。

「ありがとうございます!」

そう言うと彼は自分のスマホを取り出し、連絡先を私に伝えてきた。

そして、相互でやりとりが出来るかの確認をした。

「いや、すみません。ただ、あのまま別れちゃうと、なんというか、もったいない?みたいな気がして…」

彼は少し恥ずかしそうに言って

すぐさま、「ありがとうございました!連絡、しますね!」

と、言って去って行った。

私は心ここのあらずといった感じで、しばらくポカーンとしていたのだと思う。

すれ違う人の体が私の腕に当たり、すいません。って声が聞こえるまで、一瞬記憶を無くしたかのようになっていた。

 

 

(続け

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何年ぶりの更新だろ?←

なんとなく、一応続きを書いてみた。

まぁ、低俗な内容の無い超ライトノベルだと思って

暇つぶしてもらえたら。

 

いや、続けるって大変ね。

気が向いたらやってきますね。

ほなねー!