ショートストーリー(出会い)⑥

程なくして、私たちは目標のCDショップに着いた。

 

彼はお目当てのアーティストがならぶコーナーをいち早く見つけ、ワクワクしているのが目に見えてわかった。

私もとりあえずついて行ってはみた。

ただ、そのアーティスト自体はあまり良く知らず

彼の解説によれば、最近はテレビCMなんかでも歌が起用されていたり

少しずつメディア露出してきているなど、意気揚々と話していた。

 

普段からあまり音楽をしっかりと聴くということをしない私にとって、CDショップというのは少しワクワクしつつも、みんな、何をみているのだろうという疑問をもっていた。

それでも、知っているアーティストなんかを探してみようと

店内をふらふらと回ってみたり

なんとなく試聴してみたりをしてみた。

 

そんな中、彼は何やら迷っているようで

本人曰く、限定版にするのか、通常版にするのかというのを迷っているらしい。

正直私はよくわからないが、色々あるのだろうとあまり深く考えなかった。

 

そして彼を待つ事数分。

店内に、どこかで見た人が入ってきた。

普段なら、人の出入りを気にしたりはしないのだ、なぜかこの時は視界に入った。

 

そう。

先程、迷子の子に歩み寄っていた学生君だった。

私は、何か突き動かされるように、彼に近づいて声をかけた。

「あの、すいません。」

彼はイヤホンをしていたようで、少しビクッとなっていた。

「突然、すいません。

 さっき、迷子の子に声かけてましたよね?」

私が続けると

彼は耳からイヤホンを外しながら応じた。

「はい?あー、そうですけど、どうかしましたか?」

突然声をかけられて驚いた反面、何が起こっているのかわからず動揺しつつも、丁寧に返答した。

「あの子、大丈夫でしたか?親御さんみつかりましたか?」

普段から進んで会話を始めるタイプではない私だが、この時は妙にグイグイと攻め寄っていた。

「えーっと。すぐ見つかりましたよ。

 すぐにお母さんが出てきてくれたので、無事に解決しましたよ」

彼は動揺しながらも淡々と話す。

「それはよかったぁ。

 気にはなってたんだけど、何も出来なくて…

 とか思ってたら、君がいたから声かけてしまって。

 なんていうか、ありがとう」

 

何もしていない私がありがとうなんていうのはおかしいと思ったが、口から出た言葉がそれだった。

 

「そんな、大層なことはしてないですよ」

彼は少し照れながら言った。

「人目があると、なかなか声かけにくいですからね

 まぁ、あの子が無事にお母さんと会えてよかったですよ」

「うん。でも、あの子も君みたいな人に声かけてもらって、安心したと思うし。

 何もしてない私が言うのはおかしいけど、やっぱりありがとう」

再び感謝の言葉を伝えると、彼はむず痒いような顔をして、視線を逸らした。

 

「普段からああいう子をみかけたら声かけてたりするの?」

「いや、そんなことないですよ。

 むしろ、スルーしてることの方が多いと思います」

「それなら、なんで?」

私の問いに彼は少し考えるようだった。

「特に理由はないんですけどね。

 なんか、見ていられなくて、体が勝手に動いてました」

笑いながら彼は言った。

 

「そうなんだ。でも、そうやって行動出来るの凄いと思う」

素直な気持ちと、どこか羨望の想いもあったと思う。

 

「いや、ほんと、普段はあんなことしないんですけどね。

なんか、行かなきゃって思って…

でも、ほんと、内心はビクビクだったので!

不審者に思われたらどうしよう?

とか考えてましたよ!」

 

どこか楽しそうに話す彼が

少し大人に見えた。

私よりも、大人だなと思ったからだろう。

 

すると、声がした。

「おまたせです!」

そう言いながら彼は、レジを済ませたらしく戻ってきた。

すると、少し怪訝な顔で

ん?誰だ?コイツ?

といったような顔をした。

 

「あ。すいません。デート中でしたか」

そういって、じゃあ、僕はこれで。

と言い放って店内へと逃げるように入っていった。

 

私は、あっ。と

ちゃんとした言葉にならないまま、買い物を終えた彼が、今の誰?なんて聞くものだから

さっきの迷子の子を助けてた…

とかと説明した。

彼はフーンといいながら、次どうしよっか?

と聞いてきたと思う。

私は無作法にスマホを取り出し

あっ。すいません。

ちょっと友達から連絡がきてて…

やんわり断って、彼も不本意な感じだったが、その場で別れた。

近くまで送ろうか?と言われたが

いいえ、大丈夫です。

今日はありがとうございましたと言い放って、逃げるようにその場を離れた。

 

 

続く